道場生紹介① 組手のエキスパートに聞いてみた
全日本大会組手競技において -71kg 級で 4 度優勝し、国際大会でも活躍している組手のエキスパート、中野道場の三宅心平さんにインタビューしました。組手に対する考え方やその経緯を中心に語っていただきました。
最初に最近はどんな生活をしていますか
仕事は病院の職員をしていて、設備や衛生環境の維持に関わる業務に携わっています。最近は豆乳鍋がマイブームでよく作っています。具はその日の気分で適当に組み合わせる感じで、単純に切って、入れて、煮るだけですが、たんぱく質や野菜も摂れて美味しいのではまっています。
学生時代はどんなことをしていましたか
アメリカ文化を研究するゼミに所属していました。レポートを書いてディスカッションしたり、アメリカ映画を見て文化的な背景や意図について分析して話し合ったりしていました。
印象に残っている思い出は 1 ヶ月間、東ヨーロッパを電車で移動するバックパッカー旅行です。お金がなかったのでユースホステルに泊まって、食事は毎日パスタ作って食べていました。道に迷うなど困っていると、親切にしてくれる人が多くて感動しましたね。バスが故障して移動出来ず途方にくれていたら、バス会社と関係ない人が目的地まで車に乗せてくれたこともありました。なので、日本で困っている旅人をみると優しく接したくなります (笑)
旅行先のヨルダンでノプンデ・トルリョチャギ (上段回し蹴り)
テコンドーを始める前に、何かスポーツはやっていましたか
小さい頃は剣道、中学・高校ではバスケットボール部に入っていました。漫画「スラムダンク」と「バガボンド」が好きで 20 回以上は読んでると思います。ちなみに「バガボンド」で好きなシーンは、主人公の宮本武蔵が槍の達人である宝蔵院胤舜との戦いで、「胤舜もまた人なり」と我に返り冷静さを取り戻す場面です。作中では武蔵が胤舜との戦いでボロ負けした後、強大なイメージとなった相手に恐怖したり、勝つために卑怯な手を使おうと考えたり、心の葛藤が描かれます。精神的に追い込まれた状況で2回目の戦いになりますが、たまたま夜空を見上げた武蔵は自然の大きさを感じて、俯瞰視で自我を捨てることができて、集中状態に入ります。それから伝七…
(インタビュアー) 長くなりそうなのでその話はまた今度聞かせて頂くとして(笑)、そろそろテコンドーの話に移ろうと思います。まず、テコンドーを始めたきっかけを教えて下さい
テコンドーを始めたきっかけ
学生の頃にフィリピンの田舎の小学校にトイレ作りに行くというワークキャンプに参加したのですけど、その時にできたフィリピン人の友人がテコンドーをやっていて、遊びでミット蹴らせてもらったことが最初のきっかけです。
もともと格闘技は見るのが好きだったので、何か習いごとを始めようと思った時に「テコンドーどうかな」と思い、ファラン黄道場に入会しました。
テコンドーをはじめた頃のことを教えてください
はじめた頃は国分寺クラブ所属で、田中彰指導員や平井信和指導員に教えてもらっていて、漠然と「蹴りカッコいいなー」と思っていました。最初は身体が硬くて足が上がらないし、基本の立ち方も股関節と足首が硬くてバランスがとれず何度も矯正してもらいました。代わりにパンチの練習の時はイキイキしていたと思います。
少しずつ道場生と話すようになって、道場の納会や仲の良い先輩主催の飲み会に参加したり、国分寺市のお祭りに道場で演武したり等、練習以外でも楽しく過ごせました。
組手のエキスパートが組手で考えていることを教えてください
相手が何をするのか予測しています。攻撃のリズムや構え方、ポジション、反応の仕方や癖などをなるべく把握したいと考えています。例えば右ストレートを狙っている人は右手が無意識に準備姿勢に入ることが多いので、ストレートを打ちにくくするために先に少しだけ右に動くとか。
また、攻撃するときには必ずリズムがあるので、”タンタンタン” のタイミングで攻撃がくるなら ”タンタン” のリズム後に少し早く動いてかわし反撃すると相手は避けにくくなります。また、攻撃するふりをして相手に反撃させて、その次を狙ったり。
相手も同じことを考えて予測をして動いたり裏をかいてくるので、その駆け引きを楽しんでいます。将棋しているみたいだな、と感じます。
全日本大会マッソギ (組手) 競技で優勝 4 回。日本代表として世界大会にも出場
一番練習した技は何ですか
ネリョチャギ (かかと落とし) です。
以前、膝を捻って前十字靭帯の手術をしたのですが、しばらくはトルリョチャギ (回し蹴り) やヨプチャチルギ (横蹴り) が痛くてちゃんと蹴れませんでした。ネリョチャギなら膝への負担が少なく、ひたすらネリョチャギばかり練習しました。連続蹴りをしていたら無駄なモーションが減ってきてリズムよく蹴れるようになってきて、武器にできるかなと思いました。
手術の 8 か月後の全日本大会選考会を目標にしていたのですが、リハビリは地道で諦めることも頭をよぎりましたが、同じ大会を目指していた道場仲間に刺激をもらい、ミットを持ってくれたり、話し合ったり支えてくれたおかげで乗り切ることができました。
試合の作戦は回転系は強く蹴れなかったので、バレないように蹴るそぶりをしたり、相手を誘って最後にネリョチャギで決めるように組み立てました。結果、作戦がうまくはまり、その大会で優勝できたことは一番嬉しかったです。
秘密のトレーニングを教えてください
ゆっくりランニングしながらイメージトレーニングをしています。僕の場合は走りながらだと頭の中でイメージしやすくて、練習したミット蹴りなど何回も反復していると色々な発想が出てきて「今度試してみよう」とワクワクします。
あと最近は、深く重心を下げた状態からパンチや蹴りを打つ練習を始めました。体を連動させて力をだす目的でやっていて、まだ一ヶ月前から開始して試しているところなのですが、下半身の力の入れ方など感覚が変わってきたので続けてみようと思います。
ふと思い付いたことや格闘家の YouTube 動画などで気になった練習をするのが好きなので、何か面白い練習方法を発見したら僕にも教えて下さい。
ランニングをしながらのイメージトレーニング。新しい技の着想を得る
インタビュー/構成:山上 貴大
ファラン黄道場指導員。3 段。休日はヌン活と美術館巡りしてます